クランプスと「なまはげ」

なまはげは大晦日に秋田県など北陸の日本海側の一部で行われる伝統的な民族行事。赤面や青面の鬼の面をつけ、ケラミノ、ハバキを身に付け、大きな出刃包丁や太鼓などを持って各家をまわり、「悪い子はいねがー」「泣ぐコはいねがー」と大きな声で荒々しく叫びながら怠け者、子供や初嫁を探して暴れます。主人が鬼をなだめながら、丁寧にお酒などを出してもてなします。
南ドイツのベルヒテスガルテンやオーストリアのザルツブルグ州、チロル州等で伝説の悪魔か妖怪のような生物がいます。木彫りの醜いお面と羊や山羊などの毛を纏ったクランプス・Krampus が同行する聖ニコラウスの行事を以前見た時は、直感的にあっこれはなまはげと発生起源が同じものではないかと思いました。
クランプスが出るのは大晦日ではなくクリスマスシーズンの12月5,6日、子供の守護聖人ともされている聖ニコラウスの日の祭日です。
聖ニコラウスは日本でもおなじみの赤い洋服のサンタクロースに後になりますが、右手に長い杖と左手には良い子にしていたかどうかの子供の情報が書かれたノートを持ち、そして各家をカゴを背負い大きな袋を持つお供の黒いボロを着た老人クネヒト・ルプレヒト(黒いサンタ)と訪問します。良い子にはナッツ、チョコレート、飴やリンゴやミカンのプレゼントが出され、悪い子はルプレヒトの持つカゴや袋に入れて連れ去られ、地獄の穴に投げ込むと子供に想像させました。
その時2本~6本と村により異なる角が生えて牙を持つ恐ろしい鬼の木彫りの仮面=ラルフェと動物の毛皮の衣装をつけたクランプス5~8匹が(村の若者)腰に大きな鈴やカウベルを何個もつけ,錆びた鎖を持ち大きな音を出して踊りながら、大声で唸りながら騒々しく同行します。手には白樺の木の枝で作った箒を持ち鞭を振るいながら子供達に「勉強をするのだぞ」「親のいう事をよく聞くのだぞ」など厳しく諭してゆきます。
聖ニコラウスのグループは、子供達や若い女性をクランプスが怯えさせながら、通りを練り歩き、暴れ過ぎの場合はニコラウスが止めながら、村の全ての各家を回りレストランなどを訪問して、飲み物を提供してもらったりもしています。
この伝説の悪魔的な生き物の行事は、他にもハンガリー、クロアチア、チェコ、スロバキア、スロベニア、北イタリアに現在も残りますが、起源はハプスブルグ時代に遡るとも、或はもっと古く1600年以上の歴史があるとも言われます。
サンタクロースは、トルコの聖人であった聖ニコラウスの事ですが、西暦271もしくは280年裕福な家で生まれで350年頃の12月6日まで生き、東ローマ帝国小アジアのミラの司教だったとされています。6世紀に聖人となり、12月6日が聖ニクラウスの祭日となりました。
ニクラウスがまだ若い頃、近所に貧しい家があり、そこには3人姉妹がいる家族が住んでいました。長女は結婚したい好きな男性がいましたが、結婚資金も無く娼婦に成らざるを得ない状況に追い込まれ、この事を知りましたニクラウスは煙突から金貨を投げ入れました。するとその金貨は、暖炉のそばに干してあった靴下の中に偶然入り、長女はめでたく結婚する事が出来ました。次女も同じように金貨が靴下に入り結婚出来ました。三女の時、貧しい両親はもしかしたらまた金貨のプレゼントがあるかもしれない、その時はどうしてもお礼を述べたいと寝ないで起きていました。そして、金貨を投げ入れたのが隣のニクラウスだと気がつき、驚き感謝しました、ニクラウスはこの事は秘密にするようにと言い立ち去りました。
クリスマスに靴下を下げておくと、夜サンタさんが煙突から入り、靴下にプレゼントを入れてくれるというのはここから始まりました。
また、ある飢饉の年、食料が無く落穂拾いに出かけた3人の子供が日が暮れてしまい、ある一軒の家に宿を求めました。そこは肉屋でしたが、肉屋の夫婦は3人を殺し樽に放り込み塩付けにしました。それから7年後、聖ニクラウスがこの肉屋に来まして、食べ物を求めました。肉屋はハムと子牛の肉料理を出しましたが、ニクラウスは、「7年前のあの塩漬けの肉が欲しい」と伝え、肉屋は怯えて神に許しを請います。塩漬けの樽に3本の指を乗せますと、中から3人の子供達があくびをしながら永い眠りから覚めたかのように出てきました。良い事は3つあるともよく聞きます。また、無実の三人を死刑から救い、更に学問の守護聖人として崇められています。
キリスト教会の聖ニクラウスの伝説は、ゲルマン民族の冬至の祭りと一緒になり、ヨーロッパ各地に形を多少変えたりしながら伝承されています。
オーストリアの深いアルプスの谷間の悪霊を悪魔の姿のクランプスが音を立てて白樺の枝で追い払い、また日が短くなり太陽も少なく寒く吹雪の多い暗い季節に村人に活気を与え、その3週間後には年最大の行事クリスマス(冬至昔の太陽の祭り)になりよい子になるようにと教育された子供達には最高に楽しい行事となります。
先日、ザルツッアッハ川の谷間の村、ドルフガスタインでクランプスの展示会があり100匹の個性豊かな木彫りを見てきました。醜い牙を持つ羊のお化けみたいでしたが最初は異様な姿に驚きました。お面は1っ100万円位の値段がつくそうです。
なまはげは漢の武帝が5匹の鬼を連れて本山に渡来、これが起源ともいわれます。
秋田ではヨーロッパ人の遺伝子が体型や肌にも見られるようですが、秋田犬や北海道犬と同様に、遠い昔このクランプスも一緒にヨーロッパから渡って行ったような気がしてなりません。